タブローの終焉
2006年2月11日 藤井マリ+工藤冬里 武蔵小金井 artland
タブローの終焉
彼は窓から入ってくる。手に職をもって。
バシリカ「窓から生まれた桃タブロー、幼い頃絵は壁に描くものではなかったの?」
タブロー「お母さん、あなたは昔は壁ばかりだったがいまじゃ骨組だけの吹きさらしだ。ぼくが自立した窓になってみせるといってカッパンの欄外脚注から出ていったとき、夢見がちなあなたは情夫のイコノクラスムに反発し、ローマに色目を使っていた。ぼくはフランドルで油塗れになって修行した。もう色ガラスのほうが美しいなんて誰にも言わせない。これからはぼくが商人たちの窓になる。」
バシリカ「北のほうだと寂しくてね。ほらオーロラのようできれいだろう。ローマの男はなんでわかんないのかね。」
タブロー「人生いろいろ。娼婦もいろいろというわけか。建物を高くして上と下で別の売春をしたらどうだ。これからあなたはゴシックと呼ばれる。」
バシリカ「タブローもミュージローもわたしから生まれた。みんな去っていき、自己を複製し否定し、逸脱と自由とパロディのなかで自殺しようとしているのが分かる。エトルリアのお祖父さんが聞いたらなんというか。」
タブロー「いやぼくは口車に乗せられて環境すべてを再現する鏡のような窓になりたいとは思わない。アモルファを形にするだけだ。ぼくは人々のディスプレイの中に棲む日々の板になる。母は死んだがこれからも引き篭もり達のフレームのうちそとでキュレーションは行われていく。金がかかるのは移動と転送だけだ。」
父「タブロー、キーボードの前であなたは何をしているのか」
タブロー「偽の父よ、あなたこそなぜ中東や南アジアを動き回っているのか。あなたの妻は倒れた。最早起きあがらないだろう。あなたも、もうすぐ縛られることになる。」
父「千年経ったらわたしはふたたび解き放たれるだろう。そのときおまえを道連れにしてやろう。」
タブロー「いやそのときぼくは来た時と同じように再び窓から出ていく。すべての眼はぼくを見、完全さに封印するだろう。」