ルシア・ベルリンの聖書
ルシア・ベルリンに「エルパソの電気自動車」という短編がある。ほとんどの作品が自分の体験なので、これも実際の話を変容させて描いているのだろう。何の話題でも締めくくりが聖書の引用になる、というミセス・スノーデンとルシアの祖母メイミーの漫才のような掛け合いが続くだけの話である。
まず、ダメな知り合いの噂になり、「それでも、その人を敵と見なすのではなく,兄弟として訓戒し続けなさい」、を引用して締めるスノーデンに対して、メイミーが「テサロニケの3章!」と当てっこゲームのように言う。テサロニケには第一と第二があるので、これは正確には第二の3章15節である。
次に駄々を捏ねるルシアに対して、ミセス・スノーデンが、「主は自分の愛する者を懲らしめる」、を引用し、メイミーが「ヨハネ?」と訊くとスノーデンは「ヘブライ11章。」、と答えるが、これは12章6節の間違いである。
その後、職質してきた警官が事故を起こし、それみたことか、とスノーデンが電気自動車で通り過ぎる際に、「立っていると思う人は,倒れることがないように気を付けなさい」、と捨て台詞を投げ、「コリント!」とメイミーが言うところで話は終わる。正確にはコリント第一の10章12節である。
別の短編「ファントム・ペイン」の中でルシア・ベルリンは、「昔から不思議なのだが、字を読むのがやっとのような人たちが、どうしてこうもたくさん聖書を読むのだろう。ひどく難しい本なのに。」と書いているが、彼女の理解度がミセス・スノーデンやメイミー以下なのか以上なのかは僕にはよくわからない。