末日集
1986
末日集
冬晴れに死ぬ場所もなし枯木立
口ぐちにけがれし道を祝いけり
俗謡の只中に居り冬日哉
遠景はそれでも青なり枯木立
枯木立向かふの家も透けて見ゆ
冬の午後嫌な雑誌を見て帰る
冬の日を斜めに受けてをとこ佇ち
踏切の落つるところ迄落ちつづけ
山々に身の全貌を知られたり
満月のはやくも欠けたる 外界
世の友も死ぬほどまでには愛せざり
オリオンを見る夜見ぬ夜がありにけり
星々に寄り道をして居る土方寒
忘年や焼き鮎の腹喰いちぎる
昔おれのつくつたビルがある
じふぶんにあたゝまりたる柚子湯哉
柚子湯にも心はあらず柚子湯哉
坑掘れば逆流しおり日々の泡
この先は泡のやうなもの逆流す
ガラスのコップこへてゆく者無かりけり
極北の虎極南の竜を咬む
極南の竜極北の虎を呑む
泡ふたつ南と北に分かれ居り
霙ふる蓮の根くらし下界かな
富士山を見届けむとして愛忘る
富士山は隣人忘るためにある
美崎館→広小路の牛 根雪かな
猪の肉時限られし人の鍋
湯疲れのどぼんごぼんと睡くなる
夕映えやぞつとするなり吉祥寺
中央線一段低き苦悩欲す
ふくらみのくぼみたる午日ここに居ろ
くぼみたるふくらみここに居ろ
息詰めて異教の町を還り来ぬ
色いろの本があるなり失職す
少年誌世のおはり迄続き居り
続次号世界の果てに連 なりぬ
決定の低地平原夜の風
密告のよるや荒びれて風ぬるし
幻の低地平原雪が降る
ゼロアワー 低地平原積もる雪
大雪や銀のうきかす黒いそら
いつしゆんの凡庸さに雪降り積もる
あした 暗号の構築物となる 朝
満月の冷たく溶ける場所に居る
来し方を忘れむとすれば日は移る
前線の城散らかれば水を飲む
暖冬に吐き出されてゐる電車 蒲団の中
黒だけとなっている ha 星座
ことばみな 俳諧ハ人ニ非ズヤ 言 皆
新らしき服 世は我に値せず
来し方は俳と諧とに引き裂かれ
末日集拾遺(葉月・選)
冬晴れや分からないまま漕ぐペだる
晴れた冬ただ流れてゐる横の 下
かはのなかはれたふゆにゆきつくかばね
遠景は矢振り青なり枯木立
冬空に洋風の雲たなびきぬ
冬の雲固く小さく空の端
冬の陽 まつげに虹見ゆ 内部哉
冬の日に一直線は並びたり
寒月夜死ぬほどのこともなし外界哉
なまぬるき信仰厚し百人町
つくる俳句みる俳句とがありにけり
死ぬほどに愛しては居らず句作哉
くぼみたる今朝のふくらみここに居る
決定の場所や未だに夜の風
夜の風道切れたれば明朝跳ばむ
明後日を心配してゐる夜風 哉
大雪や隠れてぬくし雪だるま
雑 一月
冬園に妻子とひろぐ弁当のれんこんの色こん
にゃくの色
みぞれ怖るわれならなくに二輪車を捨ておき
はしりきたりけるかも
口で呼吸すれば空気の味苦し霊の宴の遠きに
臥して
体に酒入れて朝の血速まりぬ暖まりたし殻
の割れても
路傍にて楽譜を書ける少年言ふ「かたいケー
キのやうな未来」と