浜風文庫2023.5
5.1
もうすぐ死ぬ男のバラード
感傷的な詩句のいくつかはあったものの
その散財の形式は水に浮くワルツに似て
しかも四角い便器のギターに乗っており
居酒屋バイトの磊落さで
窶れた髭の笑顔を見せた
覚えなければ歌ってはいけない
そんなことまで指導され
信号待ちするその間にも
親指は休まず韻を打ち込み
茶色い草は澎湃として生え上った
克く我慢したな
と褒めてもらいたくて
商工会議所にも行った
当たり障りのない言葉遣いで
気落ちした胃の形した袋を縛った
さてまたしても夜中だ
焼肉屋は灯りを落とした
痩せた鮒のようにするりと抜け出た路地裏から
煌々としたものが漏れる小路の先にあるのが
726品目の屍であった
井戸から汲む前の
摺り切りの張力が
大理石の上で
均衡を保っていた
5.8
逆さ虹
難波中タピオカ詰んでアタオカがッ
引き換えの飛行機の低空
コークのひとが出したリックさんの新作がDon’t Think と言うんだけどtwiceが付かないからそもそもくよくよするのは考えるからであって考えなければこの悩みもないんじゃないか、というメッセージと受け取った。失敗して苦しんでいる皆さん、これを聞いて考えないで生きよう。シュール越えだなこれは。
ギリギリまで他のことで頭を満たしておき、疲労困憊して気絶するように寝ないと頭を襲われてしまう。
decadeの特色を前世紀から辿ってみると、2020年代は真の意味でリアルタイムの時代なのではないかと思う。つまりすべての制作が今の言葉でなされていっていることを量として引き付けて実感しながら急いで片をつけていく。漫若勇咲「『私のはなし 部落のはなし』の話」を読んでそう思った。
なんというか、すべてが嘘くさいとか言ってる場合じゃなくて、ほんとうしかなくて、たくさんの風船があるように思うけれどもそれは錯覚で、一つしかない中の、その密度で決まる、みたいな。その力を重力とはもはや言わない、とか。
目玉に映った風景はまだ選択されていない
家ではない家が建ち並んでいるこうした状況にあって
すべて倒壊するという言い方もまた
シェバのジュヌスだな
https://youtu.be/80_ydUz6CI0
其処此処にその木の形に藤の花
花のない体も藤に被われり
藤の花被って木々に形あり
娘役界面として着る藤の花
体のない藤が着物となっている
山々は娘となった藤だらけ
形から更に垂れたるwisteria
藤の花着てしまった木の末路 哉
着るもののない始まりにwisteria
wisteria未来にも在り逆さ虹
形なき未来を被えwisteria
wisteria恐怖と希望は垂れ下がる
藤棚を管理するノイズツイート
mumble bee hawkwindの振動で
蜂は房藤空木とだけ呟く
何が揺れ何が揺れなかったか分かれ今日の神戸の逆向きの虹
avatarも靨と言ひつ笑ふのはavatarとしての月のあたくし
凶暴な
猪が出た
と放送
あり散歩止め
られたので寝る
猪は
うちの畑で
ごろごろし
てたと隣の
人が言ってた
5.15
モンハン
藤消えた山がもう「さみしくないだろ」
たたかいなど忘れてしまった頃にノスタルジーは否定し去るものではなく効用もあったことに気付く
人間味、てことだ
目と歯と胸の順に我に返り身を投げる崖の腰の痙攣
息の仕方をあれこれ
急なダウンロードにハッとして
眼球の水平線を招来する
防御も祝福
水を抜くように洗濯機の根底が見えるようになったAIに
何をどうすればいいかというより
何故なのか訊け
5.22
5月の人称
一人称の多重を理由に
憎まれ攻撃の強まる先の頁は
理由に出来ない疾患のカタカタと
処罰と無力の務所の庭で
名前を肴の宴を張るドキュマン
まず歌うたいを任命し
矢とした
武装を覆す万能感に浸れ
今はまだ空腹ではないのだから
じきに子供を煮ることになる大飢饉の前に
戴冠式のスピーチライターの用意した双頭の犬を仕留めよ
猪はいずれは射的場になる畑に背を擦り付けよ
恐れるのは仕方ないとしても
立たされたまま矢面で歌え
誰からも愛されず一人称は死んだ
子供を連れて向かう刑場
奈良辺りの塔の絵の中に棲んでいる声で
そうすれば動じないでいられます
そうすればeverything’s gonna be all right
苦痛もなくなりますがよいですか
頭が一つしかない犬はゼリーの階段に居る
いや黒胡麻汚しのプリンかもしれない
その三人称には子供だった時とお姉さんになった時の二種類しかなかった
バイトしていた回転寿司が潰れているのを今日見た
お針子の口調で目標と言っても小さなもので大丈夫ですと言い滑り
マスクと眼鏡と眉毛の双頭が退くと
気から来た痛みが腰から昇ってくるのを
歌で呼ぶ救急車に猪を乗せ
腹を割ったら紫水晶だった
波及するシステムの中で困難は売られている
噴火の見える最終階の煙たい備蓄に歌が戦ぐ
黄色なのか金色なのか兎に角装って
噺家の死前喘鳴を続けよう
どこから抽出されているか分かるまで鉛筆で
この体という家にいる限りは本当のことを言ってくれる人から
いくつもの真が放射場に語られる
体現し吸収するこの平たい家に下水はあるか
雲は青白の洗濯機に入る
栄養豊富で添加物もない経路に
雲水の書を流すか
爆破するのは半導体工場ではない
ラーメン屋のカウンターで手放した刃物で
新しい歌をなぞる
5.29
今や緑は緑だけで諧調を整え
花水木を待ってさえいない
白人リベラルは半分に縮小し
犬猫は半々を分け合う
紙媒体はそれでも数万を保持し
維新のように一定の力を振るう
通路は赤で指し示され
退路は緑で覆われる
あちこちに散水栓は仕組まれ
店舗のない地下道で都市の希望も
本屋にない雑誌のように縮小する
坂道発進の過去もフォークリフトの資格も
四角い平安の牛角のデザインに縮小する
僕は
縮小する
延期に次ぐ延期
未整理のまま
毒を盛られて
中央線の「死にたい」がキノコ雲
縮小する
キランキランした余命で嫁入り
縮小する
弱火の鬼火で終活カレー
縮小する
人の言葉を覚えた鳥が昔の人の名前を呼んだ
カワサキ川崎一人きり
縮小
白髪はワタリガラスの廊下を滑る
思わず君が家に至る
表層の亘 焦燥の渉 航走の航
わたるくんたちが点在するわたるくんたちの妻も点在する
ヘコリプタアが田圃に堕ちた
背中に盛り上がる癌細胞の瘤
自暴自棄な死亡時期磁気嵐磁器荒らし
生存期間まで短縮営業
軽に草刈機を積んで
僕はもう日本語を捨てよう
日本語が悪いんだ
悪いのは日本語なんだ