浜風文庫2024.4
4,15
岸のない川
家族を創ろうと思って造ったのに死に別れるのはなぜか
テザリングのために俺たちは斜めに向き合い
英数字を読み上げた
晴れやかなものを犠牲にして
銃のように空洞はすぐに腐敗して
見分けが付かなくなる
どんな武器も役に立たない
光の残影が赤い線となっている
詩を終わらせようとしてこの店に来た
昔の学校のようだ
4,22
白髪の人
そんな世界の終わりも
LINEのスタンプで知らされるのだろうか
ひとりのままでいるのはよくない
名前を付けている間に気付いた
そのスタンプをまだ使っている
躑躅が奥に嵌め込まれ
瞳は暗く引っ込む
浅いつながりが分からないので
靱帯のない内臓は揺れている
立ち位置が分からないのに
白髪がぼおっと立っている
癌がこちらを向いている
文革のように水溜まりに輪が出来ている
いけない いけない
母音を端折っては
その名前をまだ使っている
評判が含まれている子音の靱帯
白髪の変色する悲劇
オイルのない気管の故障の音に射抜かれ
三つの石鹸の置かれた
外部にはみ出した構造
透明な幅広の草
綿花を飾って
顔を抱き締めた
ポエーシスは閉じている
窓のない外
宍色(肌色言い換え)やピンクに蜘蛛の巣は合う
フロントガラスを伝う雨
内部は開かれ外部は閉じている
きっと体に来る
詩どころではない
遠ざかる軽トラに雨が触れる
ハンドルのように三つに分かれている
コンクリの電柱は真直ぐに立っている
白や青の車は往来している
躑躅は奥まっている
裏のない躑躅が奥まっている
切られた幹から細い枝が出ているのを
絵と勘違いしている
介助のおばさんの声がする
雨は
(びゃあびゃあ)降っている
雨は激しく焼杉の壁を打つ
縫いぐるみは綿で出来ている
屑入れはない
SUZUKIのロゴがスワスティカのように見える
池はそのままであってはいけない
川は間違っている
場所が分からなくなる
雨が降っているのは分かる
白髪は立っている
4,29
荒れた家
皿の水は乾いた熱気に晒され
紋章は鳩の内臓
空元気の思い出
水田を切り拓く山奥の
オレンジの土壁の倒れた山道
キャベツの、罪を捲れて球形
石の混ざった黒っぽいアスファルトがキッシュのようだ
甘い本で腹を満たし
泥水を跳ねかけられながら寝そべり
髪の毛を植えるパフォーマンスは無視される
プレッシャーに打ち勝ち汚されないために
決断し続けても
荒れた家
マラコイμαλακοὶかアルセノコイタイἀρσενοκοῖταιかに関わりなく
かなり荒んでいるのが分かる
梁と柱しか残っていない
言葉は家ですと言った時
壁は落ちた
言葉は家ですと言った時
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「地上では僕を滅ぼすものがなくなった」はハイデガーの第三形式「Es ist einem langweilig」と同じだ
哲学とはほんらい郷愁であり、どこにいても家に居るように居たいと願うひとつの衝動である
ノヴァーリス