tori kudo

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2.1976

十七の春

つれない犬の傍でむべの花がむなしげにゆれる

最初の徒花に噎ぶ心の塞がり

山口百恵の「エデンの海」の顔により掛かり

透きとほった羽虫が孵る春は苦し

 

 

階段のてっぺんから

ソプラノサックスが聴こえてきた

午後

(六月の死者エリック゠ドルフィー)

埋めつくされた空間の中にいて

僕は僕に追いつけない

 

 彼女の涙を犠牲にして

 白く光る机の面のひろがりのなかで

 六月の空気をあざやかに呼吸する

 ―その呼吸は光る机の面の上に自足している……

 

ガラスのコップのなかの張りつめた水が

君の口に掬ばれた時

ケニー・クラークのドラムスに

何故か泣けてきてしまった午後……

(心の中で散分化する必要なんかないのに!)

 

雛形で埋めつくされた空間のなかにいて

僕は僕の雛形に追いつけない

 

嘗ての「造型」は何処へ行ったか?

重く拡がる空の下

僕の心は水で満たされる

 

その時すべてが終わった、父が轆轤場の硅酸水をひっくり返したのだ。水ガラスの匂いはすぐにぼくの部屋中に拡散した。どん底

                                                マルク・シャガール

                                                    脳貧血 月

                                                ルーカス・クラナハ

                                                 そらまめ・三色旗

 

                                                  イルミナシォン

全ては終わりだった、ぼくのすべての陳腐なレトリックも林檎小屋で青酸かりを飲みそこねた男の挿話もモクレンも葡萄園も神無月の明るい空も!盲のレモンは死んでしまった

 

 

朝早くからコルトレーンをかけて

いそいそと学校へ出かけて行く日は

何故かパーパーして悲しくて

空洞なのです吹きならされて

 

この状態がいいのかというと

そのときはそうも思わないのだけれど

のちになってみると

そんな感情の持続が憧れであったことを

気づいたりするのです、そんな日の午後

 

ナニがどうなってもいいのかというと

そうでもなくて

やっぱり

コルトレーンを鳴らして出てった朝のように

平明でありたいと

思わないこともないのです嘘ですけれど

 

 

ラジカルミキとギリギリゴム巻きヒコーキ

 

哀愁のボレロ
小雨そぼ降る街角に
図書券を落とす誰か
誰か俺と結婚してくれ
夜のハミガキ宣言しろ
ゴムをギリギリ巻いて
スキー場で飛ばすんだ
もっと歌よう曲やれ
もっと
とりかえすんだ!
パチンコで失くした四百円を
お前が商大なんて
訊かなくたって知ってるよ

それより俺は
俺は誰かの鉄砲玉
ラジカルミキの玩具で手先

彼女の欲するケン玉を
持っている振りしていそいで買いにゆく

 

 

はじめのソネット ブルースソナタのための一断面

ただならぬ場末の排気音に
浮かび上がった夜の蛾がライトの中で方角を教える

売れないスナックの前で
いつの間にか交通整理をしている

おれの手に
夜の蛾ひとひら 握られて
夜火事の空や煙に霞む

もう少ししたら氷の巨大な羽根が盆地の出口に羽撃く

振り返れば瀧ろ月夜
土手のクリーク状の水たまりは
ライトを浴びて真っ黒に見える

手に職をもって

俺のサンジカリズム
刃のない安全カミソリ

すっかり親しくなってしまった咳をひとつ
濡れた着物におしあててみる