tori kudo

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THE NURSERY RHYMES

THE NURSERY RYMES

 

THE NURSERY RHYMES

       Ⅰ
  海に近い荒寥とした野原にぽつり聳へてゐる圓形の伽藍
のなかでと或る傳説的な競技會が開かれてゐた。競技者たち
は競技場へむかつて行つた。彼らは野原を歩いてゐた。
       Ⅱ
海邊に近いせゐだらうか、すきとほつて濕つた風が吹き
ぬけると壹切の凍てついた事物が鹽をふいて腐食してゆく。
だだつぴろい惸獨(けんどく)な野原を十二月十六日的空を心はしてゐた
などと呟きつゝ物凄い雲の白底なしの空色惘(ぼう)然(ぜん)と象(なが)め茫貌(ぼうぼう)、
せりあがる胸に息も深く吸ひ込み、兆を孕んだ稜稜せつぱつ
まつた景色、拡散してゆく思考群(パラノイア)を水鏡(つき)に照らしてみては押
し返し色褪せた浮遊するものその存在自體が潮解するものを
眺めやって呉れてゐたことを、透きとほつた黄色い月見草に
みるやうな氣がして水や空の歌 僕はうたつた。
  風景のなかを僕は歩いてゐた。ザムザ氏の散歩にすること
も出來た。セシユヱーの空間侵蝕、腺へのparanoiaといふ生
物意識に依つて萎へたヸーナスを打ち砕き耽溺することだつ
てできた。けれども僕はたゞたゞ透明だつた。
       Ⅲ
 (噯喲(ああ)!
  清涼飮料水は背後から透明にされた!)
  あのひとは煉瓦色したとらつくを、階段の通路むかつて
棘沓(すぱいく)ざつくざつく赤土を昏絶させ乍らあるいてきた。而して
のぼりぐちのところにつつたつてゐる僕に寂し気な笑(ゑま)ひをく
れた。宇宙の寂寥がその目に舞ひ降りて來た。
  さうなのだ。あんたにわかりはしない。今朝(けさ)の僕の此の
透明な實在感を、あの空の泣きだしさうな寓意性を、白濁し
た胸を締めつけた風景の午前のあの豫感を!ペダンティック
な回青橙(だいだい)の蒟蒻、巌本茉莉衒學肆重奏團⁉︎安物のチヤヰナド
レスを身に纏つて彼女が來る!そんなものはもうありはしな
い。フヲンテヱヌブロヲ派の靑がしづかに吹き荒れはじめて
ゐたのだ。ガブリヱル・フヲーレとセザアル・フランクのな
かで僕のマチヱールがときめいた蝋(らふ)に染められてゐつた。

  大伽藍(kathedra)のなかで僕は對峙してゐた。あのひとの目はまる
で慍(をこ)つてゐるかのやうに、邊(あたり)の空氣に對して翳響してゐた。
僕はその目のなかに淋しい郊外の拾字路に立つてゐた人だけ
が知つてゐる舞ひ降りてきた存在の薄れゆく凝集を見たのだ。
あのひとはあのひとのまはりの空氣をそつくり曳きつれて煉
瓦色のうへを移動してゐつた。そして競技場のほぼ中央にあ
るウヲータアクウラアの處で身を屈めて
                  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

                                                          かの女は水を飮んだ!