◎ザリガニツリ 第19号 揚雲雀製陶所通信1 サウンド・システムという問題について
ザリガニツリ 第19号 揚雲雀製陶所通信①
サウンド・システムという問題について
今年の5月25日に、ポルトガルのセラルヴェ
ス財団が管理するポルトの現代美術館で、
「フアー・クライ」と題するパウロ・ノゾリー
ノによる白黒写真と、わたしたちのパフォー
マンスを組み合わせた一種のインスタレーショ
ンが行われた。キュレーターは、最初のメール
で、わたしたちが旅する過程で変化していくよ
うな演奏を目撃したい、と書き、海の見える彼
好みの古いホテルを予約してくれたのだった。
そういうわけで、というかいつものことだが、
当日の昼過ぎまでかかって難儀して準備した。
後のメンバーは何をやるか知らされていない
ので、昼 間は海で石を拾ったり、長がオルティ
スを暁いたその年に踊りながら自殺した、な
どという変な紹介文をホテルの人に手伝って
もらって訳したり、中国人のスーパーマーケッ
トでタラの干物を見たりしていた。 私自身の
問題としては、インスピレーションの伝達は
可能か、というテーマを取り上げるつもりだっ
た。客はホールの座席ではなくステージ 後方
に置かれた大きな丸型のクッションに寝そべっ
たりしながら聴くことになっていた。ピアノ
と他の演奏者たちとの間に仕切りの垂れ幕を
置き、まずピアノを演奏し、続いて他の演奏
者たちがそれを再現しようとする、という案
があった。そしてピアノ以外の音をまとめて、
ソフトによる変調も加え、ピアノ対他の楽器、
という、スコアも練習も要らないサウンドシ
ステムを考えた。 それがどこまで成功したか
はわからないけれど、最後の曲が終わったあ
と拍手がきて、客は美術館の一角に座ってヴィ
デオを見るように鑑賞していたのだと知れた。
オルティスについては、レセルカーダの1から
6までを演奏した。日本人が初めて耳にした
西洋音楽のひとつらしいし、この前安土城の
近くで演奏したばかりだったので奇妙な使命
感もあったが、そのこと自体は音楽の役には
立たないことも分かっていた。矢張り練習と
か日葡交流のモチベーションとかではなく、
ただメロディ担当と即興担当の間のサウンド
システムの問題なのだ。メロディを弾く人以
外の即興演奏の音は雲のようにひとまとまり
になって枝のような主旋律と対比させられな
ければならなかった。 ポルトについては古い
町で、書くべきこともあるのだろうけれどい
つものことながら自分は自分の罪の問題にか
かりきりでそういうことを楽しむ余裕がなかっ
た。ただキュレーターのペド口君が、別れる
前の晩に、王制から共和制、さらに軍部によ
るカトリック反動の弾圧の、それほど古い話
ではない、父母や自分の思い出を語ってくれて、
ポルトガル語のサウダージという意味が少し分
かったような気がした。