tori kudo

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2010以前

エメラルドの湖

 

人々は山に上って行く

崇拝のように

凝縮された碧白色を狩りに

 

ぼくらは湿原に下って行く

ヤギのように

苔の海に突き落とされ

あたたかい石の上に蹲る

 

硫化水素の谷を過ぎ

熊笹の斜面を横切ると

朱や緑や紫の

色違いの恐竜のように山々は横たわっている

 

人々は色違いの山に上って行く

凝縮されたエメラルドの幸せが

銅の指輪を曇らせる

 

 

 

 

 

巨きな女だった

路面電車を待っていた

世界が美しいことに縋ろうとして

水気を通過した夕日が僕の背中を差した

 

 

 

 

 

おやすみ、朝。

おはよう、夜。

 

 

 

 

 

ユキヤナギ

いきなり咲いて

戸惑う犬が

星を見た

雁字搦めの

昨日と明日に

空から引かれる

春の線

水は流れて

田に落ちて

心臓に落ちて

眼に落ちて

音は重なる

夜の窓

地層の闇を

掘り下げて

犬の前足

泥に濡れ

静まりかえる

 

 

 

 

moondawn

 

円錐形の香のように立っていた

付きはほぼマルク空に懸かっていた

球と円錐の関係は掴めなかった

式はそうやって終わり

未来完了形の明日からは

塩ヶ森の山の端から

歪が花札のように昇った

 

 

イルカ

 

イルカを食べた翌日から何も食べられなくなった。皆が心配すると、「私にはあなた方の知らない別のパンがあります」と答える。

 

 

 

 

斜め陽に頬を射されるまゝにする

 

 

 

 

 

9.11

 

プライベートに力が入ってないとパブリックがうそ寒くなるから

ぼくは冬瓜を食べた

点滴の似合う日だ

 

眼底に焼き付く影は傷痕

腫れた気管支の

狼煙

 

 

別れの低温火傷

 

馬鹿にしていたお前の歌がemergeというか身体に入り込んで座を占めようとする。昔のお前の歌はsaturateしてくる感じだった。今も昔も最後まで聞けないのには変わりはないが。席は無理やり奪い取るものなのか。誰でも心の中には12の座しかないのに。

 

 

 

人生のある一瞬には

地平線も水平線も見えない

夢だってあるのだ

田村隆一

 

ぼくが罪をわすれないうちに ぼくの

すべてのたたかいは おわるかもしれない

吉本隆明

 

 

 

深夜

 

大野さん、生きるより舞踏の方がた易い

携帯のメールを削除しながら運転していると、霰が降ってきた。乾いた路面を吹かれてしばらくは転がっていく。

 

右手に携帯を持たない踊り

それは墓石より重い乱暴な話なんだ。

 

 

 

 

トンネル

 

トンネルに出口はない。トンネルには入口と出口は含まれない。それらは指し示されるだけである。トンネルは地下空間の謂であり、永久に内部である。ぼくらはトンネルにいる。トンネルの中でもし何事かが何事かに変換されていくとしても、それらがトンネルの外に出ることはない。

 

 

 

 

もりガール、かけボーイ

水で洗った肉を嘗める

暗闇に置かれた泣き笑いのような肉を

水で洗い復た水で洗う

覚えず君が家に到る

玉砂利の社交

三人は笑って写真に写っていたね

包丁が降りていく舌のリアルへ

俎の鯉

そんなことでしか

切れぬ冬瓜

もうプラトー鍋だね

闇を渡り復た闇を渡る

浸透圧のカフェは世界=辺境の中心

north koreaの出汁でsouth chosun-オキナワの中身汁

ヌーヴォーの硝煙

辺野古 ヘリパッドのパラパラした香辛料が富士そばの紅生姜天そばに降りかかり

雨の御苑でビニール傘を借りる

ルー・リードのような見事な紅葉

小さな船で島に帰る

私は家(うち)である

ウィーンに行く前に借りた本や雑誌類を読んでしまわなければならない

とりわけ大里の、ミーハーの小噺みたいなあの本を

 

 

ボタ山

 

ボタ山が見たいと思った

ボタ山にはもう木が生えていて

家が建っていた

ボタ山を見たいと思っている雛形がボタ山の雛形を追いかけて

まだ仲直りしていないのだった

 

この店はまだやっちゅう

この店は潰れたごたある

 

 

 

vincent

 

こちらはvincentでもgalloの日だった

ハーモニー・コリンとは仲が悪いらしいけど

buffalo’66のハッピーエンドには泣かされたな

急に饒舌になって

テロをやめたくなった

 

仲の悪い奴くらいいるさ

トリは部屋に飛び込んでくる

トラウマを抱えてピンピンしてるトリが

 

 

 

 

見知った人々がパゾリーニ組のように役を演じていた

夢が妄想以上に経験に食い込んでいることに気付いた

ロッヂにはハンバーガーの名前が付いていて

ラファエルを通して祈っていたので舞台は剥がれた

便所裏の草叢で

最初は家族だったと思い至った

その思い出を体系化しようとしたのだ

韓国朝鮮語特に韓国語手話のメンタリティは半分海峡に埋まっている

感情は役に立たない

感情ではなく行いによってしかそれは示されない

感情は後から付いてくるだけだ

それは終わらせることができない

それは永遠に続く

それは感情ではない

パゾリーニ組の劇団シナプス

それはやさしさからは程遠い

それは感情ではない

感情は遥か下に見える

麻から眺めた辣のように

被抑圧者への同情も抑圧者への感情も支配者の論理に絡め取られる

巧妙な椅子のすり替えによって

わたしからノートを取り上げ替えたばかりのタイヤをパンクさせた

支配するとは支配していないふりをするということなので

偽の為政者を立てることまでして隠れようとしている

憎悪を見える為政者に集中させるためだ

だから感情は役に立たない

感情移入の脳おりょくを利用されてはならない

犀を抱いて二人で歩むためには

夢や妄想ではなくストレスの中に棲む戦士でなければならない

その定義ではなく実践のテクニックを教えなければならない

それは

 

 

本当は夜なのに朝であるような朝

 

暑いが日差しは弱まっている

影は黒いが5月の黒さより滲んで解けている

本当は夜なのに朝であるような朝だ

御苑にあるマキさんがよく泊まっていたホテルの、外がどんなに晴れていてもいつも真っ暗で空調の音が雨にしか聞こえない部屋を思い出した。本当は朝なのに夜であるような夜もあるにちがいなかった。