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◎ザリガニツリ 第14号 やまばとデザイン事務所だより③ moving without Ark

1月14日

ザリガニツリ 第14号 やまばとデザイン事務所だより③
moving without Ark

地層の上下について書こうと思っていた。ゴ
シックの天辺から騎士の言葉を出していたか
った。元気だった頃、蜜蝋の舟は高いところ
をすすみ、ライオンの死骸からは蜜が流れ出
ていた。しかし同じ蜜蝋の部屋で取り調べは
続き、気付いたら罪の地層にしかリアリティ
がなくなっていた。悪いことをしていないの
に苦しい目に遭うならヨブのように言葉も立
つが、悪いことをしたから苦しいなどという
惨めな男の地層から出る言葉は犬も喰わない
だろうから、山を越えても、表現領域は狭く
なるだろうなと観念していた。確かに山は超
えたが頂上付近はまだ風が強くてうたえない
うたがごろごろしているのだった。地上には
自分を滅ぼすものがなくなったからもうどこ
にも行かない、という鮎川信夫の一節がこれ
で理解できたのだと思った。  
RAVENのルーのライナーは、ポーに影響され
たのか、いいことをしようと願っているのに
どうしても悪いことをしてしまう、というパ
ウロめいた主題に意識が集中しているようだ
った。太極拳も罪の意識を打ち消すためだろ
うし、彼も「うたえないうたがごろごろ」状
態なのだろうかとふと思って、実際に富士ロ
ックの演目に当たってみると、表現領域はや
や狭くなっているものの、「犬も喰わない」
領域を無理やりブーストさせて言葉を結果さ
せようとしているのだと知れた。許されない
恋愛の始まりの様相が何種類か歌われ、神秘
に逃避し、毒づき、疲れたといい、イエスに
謝り,また痴話喧嘩し、快感に走り、夢想に
逃げ、消えてしまいたいと願い、やっと罪と
向かい合ったと思ったら、ポーによってneve
r more、と呟き、押韻に逃げ、最期は蒔いた
ものは刈り取ると結論する、といった溝板の
下の流れのような筋書きは、偽悪のハードボ
イルドというより、愛してしまったことのリ
アリティを形にしたらこうなった、というこ
となのだと思った。 別に不毛の開拓者のよ
うに無理に領域を捻り出してまでうたわなく
てもかまわない、 固いケーキのようなうた
のリアリティのためにひとを傷付けるのはも
うこりごり、と言ってしまえば幸せなのにそ
うは言い切れないミュージャンがそのフィー
ルドに雪崩れるのは必至だった。源に触れる
フルボディの層に居ながら伊達で砂の地層か
ら言葉を出してみせる渡邉浩一郎のような重
層的非決定の「まだの王子」も今は死に、軽
い地層に棲むミイラ取りとリアリティの殉教
者ばかりになってしまって久しい。駐車場の
ない不安のなかで何をひねり出すのか。カフ
カのように真中から上下に、原因と結果の方
向に生長する植物を夢想しながら契約の箱を
持たずにさまよう荒野で。  

地層の上下について書こうと思っていた。久
谷辺りの切り通しの崖で灰や赤や黒の土を採
取して焼いてみるのが好きだった。リーチの
ような文系の陶芸家は、どの地層の土を焼け
ばいいか文学的な思い入れで決定してしまう。 
窯は本当はどの地層が最善かを知っているが、
こちらの不完全な決定に合わせて融通を利か
せてくれることがある。それが向こう側の親
切というものだと思う。向こう側の親切に甘
えてゾアルに逃げるロト。そこに最後の望み
をかけていた。