あの女には気を付けろよのブルース ゆきてかへらぬ @ LE WEEK END





僕は此(こ)の世の果てにいた。
陽(ひ)は温暖に降り洒(そそ)ぎ、
風は花々揺っていた。
木橋の、埃(ほこ)りは終日、沈黙し、
ポストは終日赫々(あかあか)と、風車を付けた乳母車(うばぐるま)、
いつも街上(がいじょう)に停っていた。
棲む人達は子供等(こどもら)は、
街上に見えず、僕に一人の縁者(みより)なく、
風信機(かざみ)の上の空の色、時々見るのが仕事であった。
さりとて退屈してもいず、
空気の中には蜜(みつ)があり、
物体ではないその蜜は、
常住(じょうじゅう)食(しょく)すに適していた。
煙草(たばこ)くらいは喫(す)ってもみたが、
それとて匂(にお)いを好んだばかり。
おまけに僕としたことが、
戸外(そと)でしか吹かさなかった。
さてわが親しき所有品(もちもの)は、
タオル一本。枕は持っていたとはいえ、
布団(ふとん)ときたらば影(かげ)だになく、
歯刷子(はぶらし)くらいは持ってもいたが、
たった一冊ある本は、中に何も書いてはなく、
時々手にとりその目方(めかた)、たのしむだけのものだった。
女たちは、げに慕(した)わしいのではあったが、
一度とて、会いに行こうと思わなかった。
夢みるだけで沢山(たくさん)だった。
名状(めいじょう)しがたい何物かが、
たえず僕をば促進し、目的もない僕ながら、
希望は胸に高鳴っていた。
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