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パラレル通信

「末日集」「末日集拾遺」「雑一月」

            墓川雪夫

末日集

冬晴れに死ぬ場所もなし枯木立

口ぐちにけがれし道を祝いけり

俗謡の只中に居り冬日かな

遠景はそれでも青なり枯木立

枯木立向かふの家も透けて見ゆ

冬の午後嫌な雑誌を見て帰る

冬の日を斜めに受けてをとこ佇ち

踏切の落つるところ迄落ちつづけ

山々に身の全貌を知られたり

満月のはやくも欠けたる 外界

世の友も死ぬほどまでには愛せざり

オリオンを見る夜見ぬ夜がありにけり

星々に寄り道をして居る土方寒

忘年や焼き鮎の腹喰いちぎる

昔おれのつくつたビルがある 

じふぶんにあたゝまりたる柚子湯かな

柚子湯にも心はあらず柚子湯かな

坑掘れば逆流しおり日々の泡

この先は泡のやうなもの逆流す

ガラスのコップこへてゆく者無かりけり

北の虎極南の竜を咬む

極南の竜極北の虎を呑む

泡ふたつ南と北に分かれ居り

みぞれふる蓮の根くらし下界かな

 

 

 

 

富士山を見届けむとして愛忘る

富士山は隣人忘るためにある

美崎館→広小路の牛 根雪かな

猪の肉時限られし人の鍋

湯疲れのどぼんごぼんと睡くなる

夕映えやぞつとするなり吉祥寺

中央線一段低き苦悩欲す

ふくらみのくぼみたる午日ここに居ろ

くぼみたるふくらみここに居ろ

息詰めて異教の町を還り来ぬ

色いろの本があるなり失職す

少年誌世のおはり迄続き居り

続次号世界の果てに連 なりぬ

決定の低地平原夜の風   

密告のよるや荒びれて風ぬるし

幻の低地平原雪が降る

ゼロアワー 低地平原積もる雪

大雪や銀のうきかす黒いそら

 

いつしゆんの凡庸さに雪降り積もる

暗号の構築物となる朝

満月の冷たく溶ける場所に居る

来し方を忘れむとすれば日は移る

前線の城散らかれば水を飲む

暖冬に吐き出されてゐる電車

蒲団の中黒だけとなっているha星座

俳諧ハ人ニ非ズヤ言皆

新らしき服 世は我に値せず

来し方は俳と諧とに引き裂かれ

 

 

 

末日集拾遺(葉月・選)

冬晴れや分からないまま漕ぐペだる

晴れた冬ただ流れてゐる横の 下

かはのなかはれたふゆにゆきつくかばね

遠景は矢振り青なり枯木立

冬空に洋風の雲たなびきぬ

冬の雲固く小さく空の端

冬の陽 まつげに虹見ゆ 内部かな

冬の日に一直線は並びたり

寒月夜死ぬほどのこともなし外界かな

なまぬるき信仰厚し百人町

つくる俳句みる俳句とがありにけり

死ぬほどに愛しては居らず句作かな

くぼみたる今朝のふくらみここに居る

決定の場所や未だに夜の風

夜の風道切れたれば明朝跳ばむ

明後日を心配してゐる夜風かな

大雪や隠れてぬくし雪だるま

雑 一月

冬園に妻子とひろぐ弁当のれんこんの色こんにゃくの色

みぞれ怖るわれならなくに二輪車を捨ておきはしりきたりけるかも

口で呼吸すれば空気の味苦し霊の宴の遠きに臥して

体に酒入れて朝の血速まりぬ暖まりたし殻の割れても

路傍にて楽譜を書ける少年言ふ「かたいケーキのやうな未来」と