◎2011.3
模索舎選書棚のためのテキスト
ひとりぼっちの人々
この震災で、人々は「背骨の人」と「胸の人」とに分かれました。「背骨の人」は”日本ガンバレ”或いは”頑張るな”という方向に行きますが、「胸の人」はひとりぼっちです。外人居留者として被災し、外人居留者として外人居留者のコミュニティーからも疎外され、外人居留者としても勿論、日本からも疎外され乍ら何を表現できるか。そのことのために読むべき本は果たしてこの本屋にあるでしょうか。これらは本屋で立ち尽くすひとりぼっちの思想です。身体性の(アルトー)、ハプニングの(ダダカン)、やさしさの(マルクス)、餓死自殺の(尾形)、やってしまったことから始まる不可能な領域への、同労者のいない、残された僅かな時のための。
山小屋にて
ワラビや葛は猪が食べ尽くしてしまったが
オニシダは朝陽を浴びて透き通っている
分かれた葉の間に螺旋の芽が解かれようと している
枯れた葉にも光が当たって
桜は三分咲き
季節は終わりだが椿が滴っている
蝋梅も終わってほんとに蝋になっている
季語の縛りがなければ
きみたちのことも歌ってあげるのにな
連続テレビ小説はてっぱんだった
大きな地震があった
この春は写真を撮るのももったいなくて
眼に刻もうとしている
シャッターを切ると見えているものは失わ れるだろうな
終わりは 色なのか?
山小屋にて
ワラビや葛は猪が食べ尽くしてしまったが
ワラビはある種のシダの若い芽で、先が渦巻きになっています。春に食べます。
葛はよく繁る夏の蔦ですが、根を粉にして食用や薬用にします。
猪は凶暴な野生の豚で、山に広く生息しています。
オニシダは朝陽を浴びて透き通っている
オニシダは大きめのシダで、節分という行事ではそれを使って鍋で豆を煎ります
分かれた葉の間に螺旋の芽が解(ホド)かれようとしている
オニシダの若い芽も螺旋状態から徐々に解けて伸びていきます
枯れた葉にも光が当たって
桜は三分(サンブ)咲き
桜の開花を段階的に一分咲き、二分咲き、三分咲き、五分咲き、という具合に言い表します。
季節は終わりだが椿が滴っている
椿は冬から春の終わりにかけて、ずっと咲いているので、季節感を超えて存在しています。
その赤い花は、花弁を散らすことなく、首を切られたようにそのまま落下します。
蝋梅も終わってほんとに蝋になっている
蝋梅は冬から春にかけて咲き、transparantなその黄色は蜜蝋を思い起こさせます
季語の縛りがなければ
季語は俳句の中に入れなければならない、季節感を表す言葉です。
縛りとは規則ということです。
きみたちのことも歌ってあげるのにな
きみたち、というのは椿や蝋梅など、春に存在するのに春の季語にはなれない者たち、ということです。
連続テレビ小説はてっぱんだった
連続テレビ小説とは、毎朝NHKが放送するテレビドラマのことで、国民の大多数が観ています。
3.11の震災当時、朝の時間帯に放送されていたのは「てっぱん」というドラマでした。
鉄板(てっぱん)はお好み焼きや焼きそばを調理するときに使います。
大きな地震があった
この春は写真を撮るのももったいなくて
眼に刻もうとしている
シャッターを切ると見えているものは失われるだろうな
終わりは 色なのか?
津波の写真を撮ろうとして死んだ人が大勢いたので、震災直後の春は、写真を撮ることもはばかられるような気分がしていたのです。
varietion II
濁った爪
商店街の日差し
車内の囁き
あ いい におい
あのおねえさんかな
被災した魚喃キリコ
煩悩は故郷 と 親鸞
立ち上がれ 煩悩
お菓子な論理
代官山って割とちまちましてるんだよね
バロウズ コンピューター
激戦区と隣り合わせた豪奢
東横線の苦力 新宿二丁目への最短のC8出口に出た
おかまもしょんぼり
風?
どちらが北西か分からない
草枕
山路を下りながら、こう考えた。
津波のvideoを撮るために戻って死んだ人は言葉が上だったと
だから言葉なんて覚えるんじゃなかった*ⅰと
御苑のタリーズで男が電話している
「地上では その一日が終わろうとしています」
その近くの草枕*ⅱというカレー屋の話をしようか
開店したての頃行ったら不味かったが
最近ランキングの上位に来ているらしいので
行ってみたら矢張り不味かった
言葉を食べてるみたいだった
ただ店主は前より自信有り気で太っていた
要するにかれは味を変えるのではなく
その味が好きな自分を認める方向に自分を変えたのだ
店には「包丁人味平」の「ブラックカレー編」も置いてあり
インドではジャンルでさえないカレーの、
英国経由の辺境性を体現する鼻田香作は
麻薬でヨーロッパと共に自滅し
ラーメン顔の味平は雲南発の辺境性のやや薄い水の温度と
福神漬でやまとうた的に勝利する
だからぼくは立って店主に言った
おまえを食いにきたんじゃないと
ランキングに投票する奴らはカレーを食べてるんじゃない
言葉を食べてるんだと
それにひきかえ湯島の阿吽の汁なし坦々は
ランキングも上位だし実際美味い
激戦区におけるマーケティングとか業界的にはいろいろあるけど
ラーメンはカレーに比べて言葉が上に来ない
日本人がなぜ毎日ラーメンとカレーを交互に食べるのか
それは言葉で構成される意識と無意識の境を縫うように
出たり入ったりしているからに他ならない
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。
意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
ぼくは確認する
ぼくが御苑の何でもない喫茶店のビーフカレーを好んでいたのも、
安っぽいジャンルのような意味の落とし処を求めてのことであった
しかしその店も震災後閉店してしまった
だから今や御苑には
シニフェとシニフィアンの轟然たる乱れが生じているのだと
だからというわけじゃないが
ぼくが福岡の個展に出品しないかもしれないという噂を聞いて、
江上啓太が言葉が上に来ている人はこういうこと
(震災とか)があると表現できなくなるんだよねとか言ったらしい
どんな時でも文章として完成させることのほうが
内容より上に来るような人間にとって
今は辛い時らしい
御苑のタリーズで男が電話している
「地上では その一日が終わろうとしています」
言葉を出せ。それは立たない。(isa8:11)
ぼくは確認する
言葉なんて覚えるんじゃなかった
という言い方で言葉を使う最後の試みも津波に呑まれた
総ゆる至上主義は津波のvideoを撮りに行って死んでしまう
そして漱石は人でなしの国で言葉のカレーを食べるのだと
*ⅰ 田村隆一「帰途」
*ⅱ 草枕のカレーは本当はとても美味しいです。念のため。
尾道
川は金曜日に発している
ユニフォームを持たない僕は
きみの房べりに触った
煙の中から選び出された者が 煙の中に戻っ てゆく
アルゴリズムを呉れ
世―僕=きみ
法的に隙だらけの器に 汚点としての抽象の線
重い砂を負った僕の言葉は だから乱暴な 話だったのだ
親切を控える者は 恐れを捨てることになると
悪役の声色で 語る 善
イントネーションで 神 は 紙 になる
工業団地の見えない使徒たちが
アナウンサー口調で語る 悪
狼
蛇 ― 長引く争いを嫌う
鳩 ― 騙され易い
ソドムを変えようとしている限り自分がソドムに変えられることはない
波より高い精通の仕方をすること
そしてわたしたちは原子力を知るであろう。 知ろうとして追求するであろ
う。夜明けのように、その出て行かれることは堅く 定められている。そして
降り注ぐ雨のよう に、わたしたちのところに来てくださる。 地に染み込む春
の雨のように。
商工会は会頭という言い方をするのか
○○の指導のもと という言い方
安全な場所は野獣の腹の中
テーリオ 残忍 貪欲
傘も差さずに乃木坂
旅商人たち
too bad, too bad, the great city
moth and rust consume the treasures
自足していた貝は沖合で不幸になった
抜け道の話は似合わない
毎回代行呼ぶなよママ
二次的な位置に置けるか
the sin that easily entangles
口から出る水の色
空は介護の色に染まっている
逃亡の言葉にも根と葉がある
空に試験紙を浸し
コカコーラ工場の脇を過ぎる
釣り人たちの闇が
マッチを擦る間隔で続いている
言葉を話したりするよりも、安息日に栄光 を与えるなら、
地の高いところを乗り進ませよう
とうとう僕のことだ
立派な仕事
黒のない
白っぽい新聞紙のようなものが貼られた箱
おどおどしたエアメールの縁の白赤青のよ うな
避難所にて
堆く積まれた灰肌色の枕
共通しているものを探して乳灰色を追うと
失われた花びら色の暖かさが沁みてくる
見事に噛み合わない歯車たちの建屋じみた 本
化粧品のにおいのしない暗いパウダーのよ うな声
族長の命令によってではなく
楕円の卵を抱えて一万歩走った
タクシーの運転手のような声で
額の女は顔だけが額の女できっと二世で
葉の一枚一枚描くのは朗読の
共通の目的を探しているから
三十を過ぎて声は悲しいアヒル
陰陽のような白黒の暗さ
スズか硼酸が混じっている
小声で叱り続けなければならない奇声を発する障害のある息子はもう白髪
の混じった大人だ
大まかな接写モードの輪郭の中で 抜け落ちたものは白く、黒い者はこけし
のように ぼおっと印画されている
赤が来た 着物の柄の花魁のように
はなから 今日は氷山のように
陰影が際立っている 印章のように
額の女もそこにいる
街路なのか家から家なのか写真では判らな いが
兎に角出発しようとしている
ゴムの芋虫のようにくねくねした聖カタリ ナ女子短大の声が青緑だ
北東からの風にtouchyになっていた東京
木漏れ日 光る草
共通の目的を探して 光る灰色を眼球に入 れる
○
ひところ流行った迷路の平たい模型のような胸板を震わせて
なおざりにされるもののないように低音を発声している
自分をだめな人間だと考えさせたいのだろう
自分には価値がないなどと考えないようにしたい
味は上顎で味わう
粉をふいた和服の落雁から白い血が吹き出 ている
田舎の小学校では艶やかだった語尾の 〝他〟
樹木でさえ望みがある
枯死しても水のにおいで芽を出す
かつて宝だった卵型のもの
額のように帰ってきた
池にも渚がある
蜥蜴のフガフガ
親の自殺
蜥蜴色の革ジャンの女医の霜焼けのように赤みがかった指
郵便配達夫の青 と 白髪
白髪たち
jobの物語
足の裏の線を引く だって
ユーモラスな額の禿
蓋から内部に落ちた水滴のような
窯の内部のガラス質の雫
安息日の主
蜥蜴の王の宮殿
安息を払う とは
指を逆に曲げることが出来るとは
安息日の実体は奇跡的な安全
溢れる涙のインフレと言やあ
空色の油絵の具
猪の王は名前を訊く
蜥蜴の王は肩に凭れる
洗濯ばさみ型の巨大なパン
どんぐりのような頭
いつまでも大きくならないおたまじゃくし のような子供
発育しない河童
ゴミのように全てが流れる映像
母音のない人と子音のない人が喋っている
芳しい はんぺんを噛むような上顎と下顎 の動きが空を切る
新学期
放水なのか 滝なのか
決壊はゆっくり起こっているように見えるだけだ
例えば
視察
三角形の残滓が白い火事のようにラインを作っている
山は悠大過ぎて 眉を顰めた歩行は常態化している
突然の風に軽トラが揺れて
ユキヤナギはゼカリヤ的である
第一声の揺れは要塞の上を彷徨う
低空飛行の蜂が地面の埃を円形に吹き払う
泣いて食事をしようとしなかったハンナとペニンナの感情の受け分
この春は美しすぎて
写真に撮るのも
勿体無い 外には戦い、内には恐れ
ただ朝の連続テレビ小説があった
山は悠大過ぎて
点在する家は孤立していた
ラフだけの連載マンガのような白い夜行
死も 生も み使いも 政府も 今あるものも 来るべきものも 力も
高さも 深 さも またほかのどんな創造物も
on an inspection
涙をもって蒔く種もなく
与えられる結末もない
自分や他人の延長線上にさえない強さ
おせっかいな密告 meddle
ゲーム画面の山道が続いてゆく
この世は基本的には皆さんに敵対しています
視察
三角形の残滓が白い火事のようにラインを作っている
三角形はピラミッド型のヒエラルキーや差別意識を表します。ラインはここではtwitterのタイムラインの
ことです。タイムラインにRTやメンションが集中することを「炎上」と言います。
山は悠大過ぎて 眉を顰めた歩行は常態化している
日差しが眩しいと、眉をひそめた険しい表情になる人がいます。大きな力の前で、無力感が普通になっています。
突然の風に軽トラが揺れて
軽トラとは自家用の小さいトラックです。横なぐりの強風が吹くと、車体が転倒するほど揺れることがあります。
ユキヤナギはゼカリヤ的である
ユキヤナギは春に咲く非常に白い花で、風景がゼカリヤ書の幻のように色彩的になります。
第一声の揺れは要塞の上を彷徨う
第一声とは選挙の候補者が選挙運動を始めるときの最初のスピーチを指します。大抵は宣伝カーで名前を連
呼するだけですが。そうした音声は耳には届きますが、要塞のような意識の内部には届きません。
低空飛行の蜂が地面の埃を円形に吹き払う
ある種の熊蜂は初夏に地面に巣穴を作ります。それは(救援の)ヘリコプターやオスプレイが離着陸するときのようです。
泣いて食事をしようとしなかったハンナとペニンナの感情の受け分
1Samuel 1:1-8 ペニンナは子供の数に応じてハンナよりも多くのものを夫から受け取りました。
この春は美しすぎて
写真に撮るのも勿体無い
外には戦い、内には恐れ
2cor7:5
ただ朝の連続テレビ小説があった
「てっぱん」のことです
山は悠大過ぎて
点在する家は孤立していた
津波によって孤立した集落が沢山ありました。
ラフだけの連載マンガのような白い夜行
ラフとは漫画の下書きのことです。ここでは殴り書きのデッサンの連続のような物事の進展、その余白の白
が際立つ夜の旅、という意味です。夜行とは有名な日本のアングラ漫画雑誌のタイトルでもあります。
死も 生も み使いも 政府も 今あるものも 来るべきものも 力も 高さも 深さも またほかのどんな創造物も
romans8:38
on an inspection
タイトルの視察、ということです。上位の権威の、私たちへの検分という意味合いを兼ねています。
涙をもって蒔く種もなく
与えられる結末もない
pslm126:5,6
自分や他人の延長線上にさえない強さ
おせっかいな密告 meddle
ゲーム画面の山道が続いてゆく
この世は基本的には皆さんに敵対しています
政府の高官による被災地への視察と、キリストに検分されるべき個人、という二重の混乱した意識が描かれています。
そういう風にして
そういう風にして今年に入って、ある曜日にある場所である地層から遺書のような言 葉を出すことを続けてきた。震災の後、東 京でもそれが出来る状況になり、東京から 帰って来てからは最早場所は日常全体に敷 衍できると思い始めた。書くことには手続 きが必要だ。詩とは言葉を出す場所を決め ることだ。そういう風にして、再びノスタ ルジーの契機さえ捉えることが出来るよう になる。そういう風にして、今日のわたし が昨日のわたしになる。未来はないにしても。
場所が消えた
地層が消えた
場所さえ消えた
名指した途端に
終わりは色なのか
と書いた
色が消えた
フィルムを巻くたびに
磨耗していく
今日のわたしは昨日のわたしになる
石から白黒の花
危機は鈍い心を素通りしていった
洪水の処理だけしていた
リンゴが手を叩く
ドアのない家で
喜ぶべき理由がない
芳香剤が効いて腐臭がしない
リンゴが足を組んでいる
白い手袋を嵌めている
手を頬に当てている
「まだ滅ぼしていないのは
何と幸いなことでしょう」
報告など見ていなかった
津波の後 石の心は凪いでいる
場所が消えた
地層が消えた
洪水で押し流された実際の地層と、自分の意識の諸階層の双方を表します
場所さえ消えた
実際の災厄で消滅した集落と自分が拠って立っていると思っていた階層の双方を指しています
名指した途端に
震災後のそうした場所に関するシニフィアン(signifiant)とシニフィエ(signifié)の関係の変化のことを言っています。
終わりは色なのか
と書いた
色が消えた
フィルムを巻くたびに
磨耗していく
アナログのカメラのことです
今日のわたしは昨日のわたしになる
石から白黒の花
写真のことを言っています
危機は鈍い心を素通りしていった
洪水の処理だけしていた
リンゴが手を叩く
ドアのない家で
喜ぶべき理由がない
芳香剤が効いて腐臭がしない
リンゴが足を組んでいる
リンゴは女の子の名前でもあります
白い手袋を嵌めている
手を頬に当てている
「まだ滅ぼしていないのは
何と幸いなことでしょう」
これは地震や津波ではなく最終的な社会全体の滅びについて言っています
報告など見ていなかった
津波の後 石の心は凪いでいる
1tim4:2