MUNDANE EXISTENTIAL GIRL’s r’n’r 1982
11月18日
DJとはレゲエにおける用法も含め共同体(fellowship)に向けた一種の場のテキスタイルであり、曲間を繋ぎ織りなす糸としてのテキストは文体を夢見て展げられ、ホログラムの存立平面を構成する立体の織物、つまり服になる。それは例えば青い毛皮の制服であったかもしれず、マットなカラス族とレイバンの光沢が入れ子になった諸相であったかもしれず、袋物として閉じることでアンセムが構成される。それらを身に纏うことで仕事を得ていたDJが、ある日、幻想のスマートな聴衆に向けてミックスを編むと決意する。批評行為が演奏を凌駕する時音速を超えるように、その時DJの文体はDJというそもそもがメタなジャンルのさらに上層、DNAを記憶して復活させる者のレイヤーに身を置く事になる。単なるジャンルであ れば死滅に向かうだけでよかったのが、絶滅したものを含めて世界の出し入れをするのだから、メディアじたい(と)の即興を執拗に行ってきたクリスチャン・マークレー周辺が冒頭に挙げられているのは編集者としてのじぶんの位置に関する一つの宣言であると受け取れる。ノイズ前夜のごたごたからは、一番の嫌われ者を持って来ることで、MBもかつて居た場所が含んでいた民族問題の毒を指差してみせる。反日ダブの悪意とvanityの1980年に自爆したold futureも掬いとられる。ノイエ・ドイッチェ・ヴェーレからは、音の粒子に至るまでクラウトとの断絶を感じさせ、しかもバンドとしての持続性のみcanと共通した運命を辿る「梅毒」というキャプテン・トリップなマキシ・シングルが選ばれる。ポートランド経由でLAFMSから選ばれたチンカスの「いぼだらけの夕方ずっと」については、言っておきたいことがある。このアルバムのタイトルは「nattering naybobs of negativity(否定的思考傾向のちゃらちゃらした成金)」というのだが、naybobはnabobの崩れた言い方、nabobはバングラデシュ語nawbabからの転訛で、ムガール帝国時代のインド太守、後に東インド会社の白人に対して侮蔑的に使われるようになった。だからnabobつまりnaybobはインド帰りの欧州の大富豪、転じて一般の成金の意になるのだが、このnattering naybobs of negativityというフレーズは、もともとは、ニクソンの副大統領(1963~1973)を勤め、政敵に対する異常な、多くの場合頭韻の形容語句で相手を攻撃することで知られたスピロウ・アグニュー(もっと厳密に言えば、ホワイトハウス・スピーチ・ライターのウィリアム・サファイアの原稿による)が造ったもので、アグニューは特にジャーナリストやベトナム反戦活動家達を叩くハチェット(殺し屋)として雇われていた。その批判はいつも韻を踏んだ調子のいい悪口で、小心な心気症ではないかと思われるほどのたわいのないものだったらしい。アグニューは後に彼のレトリックを和らげて、大統領選に立候補する目的で1972年の選挙の後にほとんどの頭韻を落としたが、1973年に$29,500の脱税で辞職した。で、smegmaはそのフレーズ を覚えていて、タイトルに使ったということになる。流石の坂口君もここまでは調べてないだろうと思い記す。
話が逸れた。
コントーションズではなく薮の(4人の)熱帯淡水魚たちが選ばれているのは、それがニューヨークで、スタジオで全員で曲を作るタイプのバンドをやる、ということがどういうことかを体現しているからだ。牧野はここでいわば自分のベースを弾いているのだ。ブリストル的な口はYをマッシブ・アタックに繋ぐ。ケイトに繋ぐ綿糸は見えないが、ケイトの旦那に繋ぐ羊毛は見える。同じYでもロンドンからはまず、始まりからポスト・パンクだったレインコーツ周辺のテスコ爆破犯たちだけが注意深く選ばれている。今では美術評論家のニール・ブラウンが当時殆どすべてのファンジンでsex against rockismなどというテキストを書いていたことなど忘れ去られ、日本では女性一人の多重録音などと紹介されているがvanityじゃあるまいし、たわけもいいところである。もう一つのロンドンの、早すぎたポスト・パンクのトロツキストの触れ込みで、ソシアリストとキャピタリスト以外の単語は出鱈目なフレンチをトラック1のエリオット・シャープに似ていなくもないギターに乗せる趣味は、正しくはMystic Knights of the Oingo Boingoである筈の西海岸暗黒ピュペット趣味と後のティム・バートン経由で牧野の映画好きに引っ掛かるエルフマンと、自己アピールと孤心の狭間で芸能の大西洋を泳ぐアンビエント女、パスカル・コムラード、を経て、後のシカゴ派の端整な自殺を彷彿させるFeminine Squared故リディア?トムQ嬢のこれも語りに再び引き継がれてゆく。最期の致死量ケーテ・クルーゼからは、女の歌ものの誕生の背後の途方もないアヴァンギャルドがのしかかる。もし老人ホームに入れたとして、しかも世界がまだ終わっていなかったら、牧野にDJしてもらいたい。そしたらぼくは
1982年を着るだろう。
01 David Fulton,Elliott Sharp Wayne Horvitz,Robert Previte,David Hofstra/LIKE CHIGNIK pt 1
02 Boyd Rice Daniel miller/Cleanliness and Order 2.45 LAFMS #12
03 RNA ORGASM/YES EVERY AFRICA MUST BE FREE VANITY 006
04 SYPH/I WANT YOU VOD12
05 SMEGMA/thru the warty evening DMC012
06 BUSH TETRAS/DASH AH RIOT FETISH RECORDS40
07 MOUTH/Voyage To The Bottom Of The Sea YAL-1
08 Vincent Units/Martini Y8
09 pragVEC/EXISTENTIAL SP 001
10 OINGO BOINGO/la Petite Tonkinoise /Forbidden ZONE S.T.O STV 81170
11 JUDY NYLON/jailhouse rock
12 FALL OF SAIGON/so long ATEM 7013
13 ALGEBRA SUICIDE/true romance at the world’s fair RRR20
14 Käthe Kruse & Gudrun Ohm/Elegie Im März Doris 011
https://soundcloud.com/kayo-maki/kayo-guid-1